とてもアイロンがけのすきなおばあさんがいました。
アイロンをかけてピーんとしわをのばすと、気持もしゃーんとするのです。
おばあさんは、どんなものにもアイロンをかけたくなりました。
ブラウスやハンカチはもちろん、よみかけの新聞やお金にさえ、
しわをみつけると、アイロンをかけずにはいられませんでした。
カーテンや座布団のしわも、みのがしません。
「しわ、しわ、しわはないかしら」
おばあさんはアイロンをかけたくて、いつもしわをさがしていました。
けれど、おばあさんの家には、しわのよったものは、
もう何一つ、みあたりませんでした。
「しかたがないわね」
おばあさんは、たった今、干したばかりの、ぬれたせんたくものをとりいれて、
アイロンをかけはじめました。
おばあさんは一人暮らしでしたので、少しばかりのせんたくものにアイロンを
かけると、それでおわりでした。
おばあさんは、すりよってきた猫のミーにいいました。
「背中が曲がっているようだけれど、アイロンでのばしてあげようか」
「け、けっこうニャニャニャッ」
ミーはそういうと、するりとどこかへいきました。
庭先で犬のチロがしっぽをふっていました。
「しっぽがねじれているよ。アイロンをかけてまっすぐにしてあげよう」
「よしてください、おことわりだワン」
チロはしっぽをかかえこんで、ねそべりました。
おばあさんは、窓のそばにいくと、鳥かごをのぞいてみました。
インコのピー子が止まり木の上で、毛づくろいをしていました。
「はねにアイロンをかけると、もっとピンとして、みばえがするわよ」
ピー子はいやいやというように、はねをばたばたさせました。
おばあさんは、もっとアイロンをかけたいと思いました。
「しわ、しわ、しわっと、どこかにしわはないかしら……。
あっ、な−んだ、あるじゃないの。ほら、私の顔のしわ」
おばあさんは、しわだらけの自分の顔に、ちょうどいい温度でアイロンをかけました。
のびる、のびる。しわがどんどんのびていきます。
おでこのしわも、めじりのしわも、あっという間になくなりました。
「こりゃいい」
おばあさんは調子にのって、鼻にもアイロンをかけました。
鼻はへしゃげて、しゅーんとなくなって、
おばあさんの顔はのっぺらぼうに、なってしまいました。
そんなおばあさんを見て、チロがほえます。
ミーがうなります。ピー子がばたばた、はばたきます。
「わたしだよ、ほら、わたしだよ」
いくらいっても、わかってくれません。おばあさんは、鏡を見て、びっくりしました。
「きゃっ、こわい! ほんと、これは、わたしじゃないわ」
おばあさんは、お風呂にとびこみました。そして、じゃぼじゃぼ顔を洗うと、
元どおり、しわしわの顔になりました。
お風呂からあがってきたおばあさんに、犬が甘えます。
猫がじゃれつきます。インコは安心して歌をうたいます。
「ほっほっほっ、でも、おもしろかったね。ゆかいだったね。
チロもミーもピー子もやってみようよ、アイロンで変身、おもしろいよ」
おばあさんが、あんまり愉快そうなので、犬も猫もインコも、
(こんどたのまれたら、アイロンをかけさせてあげてもいいな)と思いました。
それからです。
おばあさんの家に、いやに姿勢のいい猫や、ぴんとしっぽの立った犬、
くじゃくのようにはねを広げたインコがみられるようになったのは……。

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