しずおばあさんのおねがい 絵・早川博唯


「うふ うふ、うははは……」

 サンタのおじいさんはゆかいになって、
とうとう声をだして笑ってしまいました。
「そうかい、そうかい。いいともいいとも」
 おじいさんは笑いながら、大きくうなずいています。
 クリスマスが近づいたある日のことです。
おじいさんの耳に、あるおねがいごとが届いたのです。
そのことがおじいさんをほのぼのした気分にさせたのでした。
 どこのだれから、どんなお願い事が届いたかって? それは、ね……。
 
 しずおばあさんは八十歳ですが、
まごのカオルもびっくりするほど元気です。
       ところが去年の秋頃から、少しずつ物忘れが多くなりました。
お年寄りにはよくあることです。
 おばあさんは、時間がだんだんわからなくなっていました。
それが昨日のことだったのかずーっと前のことだったのか、
ごちゃごちゃになってしまうのです。
  そのうち、おばあさんの心は、子どもの頃に、かえってしまいました。
  しずおばあさんは、朝おきるとこういいます。
「おかあさん、かみをくくって」
「はいはい、今、おさげにしてあげますよ」
 おばあさんの娘であるカオルのおかあさんが、おばあさんのおかあさんになりきって、かみをとかしてあげます。
「おでかけしたい」
 しずおばあさんがそういうと、家族のだれかが手を引いて、
散歩に出かけます。
そんなときのおばあさんは、ごきげんです。
 ある日、おばあさんは、カオルにききました。
「メリーさんはどこ?」
「メリーさんって?」
「メリーさんよ、わたしのメリーさん……」
 しずおばあさんは、じれったそうに、くりかえしてそういうだけです。二年生のカオルには何のことかわかりません。おかあさんにきいてみましたが、
「さあ、どなたのことかしら?」
と首をかしげました。
おばあさんは、その日は一日メリーさんのことをいって、ぐずっていました。
 おばあさんがあんまりさみしそうなので、
カオルは、なんとかしてあげたいと思いました。
「おばあちゃんは、メリーさんがほしいのよね」
 カオルがそういうと、しずおばあさんは、大きくうなずきました。
「それなら、サンタさんにおねがいしてみようか。
あたしもいっしょにおねがいしてあげる」
 しずおばあさんは、また大きくこっくりうなずきました。
「じゃ、おばあちゃん、こうして手をあわせてみて」
 カオルが手をあわせると、おばあさんもまねをして、手をあわせました。
「いい、おばあちゃん、こういうのよ。
サンタさん、わたしにメリーさんをください」
 しずおばあさんは、カオルのまねをしていいました。
「サンタさん、メリーさんをください……」
 この声が、サンタのおじいさんに届いたのです。
 おじいさんは、子どもたちからのおねがいは、ききなれていましたが、
おばあさんからのおねがいは、はじめてききました。
さいしょは、びっくりしたのですが、
すぐに、しずおばあさんは、すがたはおばあさんでも
心は子どもだということがわかって、おじいさんはゆかいになったのです。
「いいとも、いいとも、メリーさんをあげようね」
 サンタのおじいさんにはメリーさんがなにか、すぐにわかりました。
 メリーさんは青い目の西洋人形でした。まだ、西洋人形がめずらしかったころ、しずおばあさんのおとうさんが、外国のおみやげに買ってきてくれたのでした。子どもの心にかえったおばあさんは、それを思い出したのです。
サンタさんにおねがいして安心したのか、
おばあさんは、ぐっすりねむっています。
 クリスマスは、もうすぐそこです。  

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